シャツで格好つける。

エッセイ

 昔からスーツやブレザー、ネクタイ、シャツなど「きちんと感」のある服がかっこいいと思うことが多かった。アイビーに傾倒していた父親の影響も大きいが、育ちの良さや自分の真面目な性格とも相まって、そういったアイテムに憧れを持つのは自然だったと思う。中でもシャツは、1着でスタイルが成立する、バサっと羽織ってカジュアルに着崩すこともしやすい、ほぼ季節問わず着られるので、結果として所有数もどんどん増えていった。「服の中でどのアイテムが1番好き?」と聞かれれば、間違いなく「シャツ」と答えるくらいには好きだと思う。

 スーツに合わせるようなシワひとつないピンとしたシャツを身に纏えば、背筋が伸びて紳士的な振る舞いをしたくなる。パーティーなんて柄でもないけれど、それらしいハレの場に行く時は襟を正して気合いを入れたい。そんな気張った服装も好きだが、日常的に着るとなれば話は別。肩肘張ってしまうような洗練されたものよりも、洗いざらしでちょっとシワになっても雰囲気がある方がいい。シルエットも身幅にゆとりがあると着ていて楽だ。年々選ぶサイズは大きくなっていて、肩が落ちるほど大きいサイズになると、丸っこくて可愛らしい。一方、肩のラインがあったものは端正な印象を保ってくれる。どちらの雰囲気も好きだけど、シャツを着る時はできるだけ男前でありたいと思うので後者を選びがちだ。

 無地の主張性のないアノニマスな雰囲気も好みだが、お気に入りの柄物を纏っている時はすこぶる機嫌が良くなる。テンションを上げたい時に手に取りがち。特に柄物を買う時は必ず胸ポケットを見て、ポケットと身頃の柄合わせがちゃんとされているかを逐一確認。まるで家の埃をチェックする悪い姑のごとく、店にかかっているシャツのポケットをくまなくチェックし、ニタニタしながら物色する。こんな買い物姿はあまり見られたくないので、服を買いに行く時はだいたい1人かネットで済ませている。

 襟の形も基本的にオーソドックスなレギュラーカラーがいい。ただ、首元に余白を作った開襟シャツは、ゆるさがありつつも少し昭和感漂うクラシックな印象が好みだ。休日やちょっと浮かれたい日に羽織っておきたい。襟の開きを活かして、胸や鎖骨あたりの肌を覗かせると色気があっていいんだろうけど、たくましい肉体を持ち合わせているわけではないので、丸首のTシャツを着て肌は絶対に見せない。自分なりの絶対領域。リラックス感のあるシャツと、首元まで詰まっている律儀なTシャツとの合わせが何より落ち着く。

 素材もコットンのものがほとんど。扱いやすいし、汚れても洗えばどうにかなる(と思っている)。ドライクリーニング推奨とされるものもあるが、あまり気にせず洗濯機か手洗いでジャブジャブと洗う。パンパンと叩いてシワを伸ばして太陽の下に晒す。乾きたてのシャツに袖を通した時、水分が抜けきった生地が皮膚に触れるのが刺激的だ。着用と洗濯を繰り返していくことで色あせたり、ヨレたりしてくるが、僕にとってはそれがかっこいい。体に馴染んでくるのを実感するとより嬉しくなる。モノ自体の市場価値は下がっているかもしれないが、僕の中での価値は右肩上がりに高まっている。だから、格好つけたい時は新品のものよりも育てたシャツを着て、精一杯格好つける。シャツに負けないように、だらしないと言われないように、自分自身の襟はしっかりと正して。ちょっと格好つけ過ぎか。

エッセイ
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